3つのアルバムで紐解くCamila Cabelloの誇りと強さ。
BY FEEL ANYWHERE
2022.06.13
2022年4月に約2年半ぶりのニューアルバム『Familia(ファミリア)』をリリースしたカミラ・カベロ。世界的なシンガーであるリアーナ同様、移民としてアメリカで大成功しているシンガーソングライターだ。一般的には、ひょっとしたら2021年9月に全世界配信されたAmazon Original Movie『シンデレラ』で、主人公のシンデレラを演じ、映画初主演を果たした女優としてのカミラ・カベロ(以下、カミラ)に馴染みある人が多いかもしれない。この映画で描かれるシンデレラは、新しいヒロイン像として大胆にリメイク。恵まれぬ境遇に置かれながらも王子様を待つのではなく、ドレスデザイナーになるという夢を持ち、ビジネスウーマンとしてキャリアを築こうと奮闘する姿に共感した人も多かったのではないだろうか。
Cinderella | Official Teaser | Prime Video
同時に多くの女性たちは、カミラに親近感を持つことができたのではないだろうか。そんなカミラ自身が『シンデレラ』と同じような生い立ちを持ち、そのキャリアを歩んでいるとしたら、皆さんはどう思われるだろうか。そんな彼女のこれまでのストーリーを 3つのアルバムに沿って紹介していこう。
移民としてアメリカに渡ったカミラのシンデレラ・ストーリー。
2018年、コンサートでパフォーマンスするカミラ・カベロ。Photo:Dimitrios Kambouris/Getty Images
メキシコ人の父親とキューバ人の母親を持つカミラは、キューバの首都ハバナで1997年に誕生、幼少期は両親の母国を行ったり来たりしながらの生活を送っていた。母親は建築家として働いていたものの、キューバの閉ざされた環境では成功へのチャンスを見つけることができなかった。娘にはもっと開かれた世界で生きてほしいという思いから、カミラが6歳の時にキューバからメキシコに渡り、その後1ヶ月かかってアメリカ・フロリダへ。その時の母親の所持金はわずか3万円のみで、非常に厳しい経済環境だった。そんな状況でアメリカでの新生活をスタートさせたカミラ。英語を話せなかったこともあってか、少女時代はいまでは想像できないほど内気な性格だったようだ。
“私の場合、キューバとメキシコで育ちアメリカに移住し、アメリカ社会のどう溶け込むかを考え若くして音楽活動をするために家を出てスポットライトを浴びるなど、多くの経験をしました。”
カミラのインスタグラムには、移住してきた頃の写真とともにこのようなコメントが残されている。彼女はアメリカでどのように成長していったのだろうか。
カミラが思春期になると、エド・シーランやテイラー・スウィフトなどを好んで聴くようになり、音楽への興味を膨らませていった。同じ頃にカミラは、イギリス発の大人気オーディション番組「Xファクター」に夢中になっていた。そして、この番組を通じて、普通だった若者たちがビッグスターになったワン・ダイレクションに大きな刺激を受けたカミラは、15歳の誕生日を迎えると自らもアメリカ版「Xファクター」のオーディションを受けることを思いたつ。その選出過程で、同じようにシンガーを目指す少女たちとフィフス・ハーモニーというガールズグループを結成。優勝は逃すものの3位に入賞しメジャーデビューを果たし、2013年に最初のEP『Better Together』をリリース。この作品はBillboard 200で初登場6位にチャートインするなど人気を博した。また2014年にはMTV Video Music Awardsの最優秀新人アーティスト賞を受賞、Billboardでは「2010年代の最大のガールグループ」と名付けられるなど大きな期待が寄せられるようになる。
Miss Movin’ On (Official Video) -フィフス・ハーモニー-
2015年にはシングル「ワース・イット feat. キッド・インク」が1本のミュージック・ビデオで10億回の再生回数を誇る初の女性グループとして大ブレイク。世界的な名声を得ることとなり、その人気は揺るぎのないものになっていった。言葉も上手く喋ることができなかった少女は、まさにアメリカン・ドリームを実現させていった。
『カミラ』はヒスパニックとしての彼女のルーツを辿るアルバム。
1st アルバム『カミラ』(JacketPhoto)
しかし、カミラはグループが最高潮を迎えていた2016年12月にグループを脱退する。カミラは当時の気持ちをこう振り返っている。
“黙って与えられた歌を歌い、与えられた服を着るのではなく、自分が作った歌を歌いたいから”
彼女はヒスパニックとしての自分のルーツを忘れることはなかった、むしろラテンミュージックを取り入れた音楽アプローチをしていきたいという気持ちが増していったようだ。一方で、パフォーマーに徹することで商業的成功が約束されたフィフス・ハーモニーでは、カミラの想いが形になることはなかった。しかし自身の名前をタイトルにしたファーストアルバム『カミラ』に収録されている「ハバナ feat. ヤング・サグ」は、そんな彼女の想いが込められた特に内容の濃い作品となっている。この曲はアルバムから先行リリースされ全米チャート1位のほか、イギリスやカナダ、オーストラリアなど世界各地でチャート1 位を獲得する世界的な大ヒットになっていく。
Havana ft. Young Thug -カミラ・カベロ-
その理由の一つに、ソロになってから自身の信念を発信しているスタンスに多くの人が共感したことが挙げられる。「ハバナ」をリリースした2017年、アメリカでは新たに誕生したトランプ政権が〈移民・難民排斥政策〉を推し進めていた。移民としてアメリカで育ったカミラは、この政策を臆することなく批判して話題となった。訴えるだけではなく、「ハバナ」のシングル売上すべてを「 DACA (移民救済制度)」の活動資金に寄付することを約束したことも注目された。またアメリカとメキシコの国境にある米移民収容施設を訪問し、自身の経験を生かし移民の家族や子供たちをサポートする活動も積極的におこなっている。
さらに、第60回グラミー賞授賞式でプレゼンターとして登場したカミラのスピーチは多くの人たちの琴線に触れた内容として注目された。
“私は今夜、夢見る人たちのおかげでこのステージに立っています。
それは私の両親で、希望以外詰まっていない空っぽのポケットで私をこの国に連れてきてくれました。
彼らは私に人一倍働くこと、諦めないことを示してくれました。
私はキューバ・メキシコ系移民を誇りに思うしイースタン・ハバナに生まれたことニューヨークのグラミー賞のステージに立てたことを誇りに思います。”
「ガールズ・グループのカミラ」から、「キューバからアメリカにやってきたカミラ」としての存在へ。
ソロ活動をスタートさせたカミラは、水を得た魚のように自身のバックボーンに寄り添い発信力を強めていったのだ。
20歳で初めて恋に落ちたカミラの恋愛模様を描いた『ロマンス』。
2nd アルバム『ロマンス』(JacketPhoto)
自身のアイデンティティを開放したのがアルバム『カミラ』だとしたら、2019年にリリースされたセカンドアルバム『ロマンス』は、カミラの恋に対する感情が溢れ出た内容になっている。アルバムプロモーションのためイギリスの情報番組『ロレイン』にゲスト出演した際、カミラが自身の恋愛について次のように語ったのには少なからず驚かされた。
“ファーストアルバム『カミラ』に収録されている(恋愛の)曲はどれもすべて私の妄想をもとに書いたものだった。
単刀直入に言うと、私は20年間シングルだったの。”
フィフス・ハーモニーの活動が忙しすぎたのはもちろん、元来の内気な性格も重なり恋愛を経験する時間がなかったというカミラ。彼女に初めてロマンスが訪れたのは20歳を過ぎてからのことだった。その恋人とはさまざまなメディアで活躍する10歳年上の男性だった。初めてのロマンスの相手についてカミラは「彼は私の人生で一番幸せにしてくれる存在」と公言。セカンドアルバム『ロマンス』には、スーパースターになりながら、恋愛に関しては奥手だったカミラの初々しい心情や、初めて恋愛に落ちた実体験をベースにした曲が収録されている。
また、カミラにとって2番目の恋の相手となったショーン・メンデス(以下、ショーン)とのデュエット曲「セニョリータ」は特に大きな注目を浴びた。ミュージックビデオでは、まるで映画のような濃厚なラブシーンが登場するので「もしや?」と思っていた人もいたかもしれない。
Señorita (Official Music Video) -ショーン・メンデス & カミラ・カベロ-
10代の頃から友人同士であったショーンとカミラは、2015年に「 I Know What You Did Last Summer」でコラボレーションした時からお互いを意識していたようだ。それが「セニョリータ」をきっかけに2人は急接近。カミラはショーンとの交際をスタートさせた。ショーンもまた、カミラが初恋の人であることを告白するなど、カミラへの一途な気持ちを告白している。
I Know What You Did Last Summer (Official Music Video) -ショーン・メンデス & カミラ・カベロ-
パンデミックが発生してからはマイアミで一緒に隔離生活を送っていた2人は、カミラがショーンにスペイン語を、ショーンがカミラにギターを教えるなど本当に仲の良い関係を育んでいた。多くの人からは、このまま婚約するのではないかとも思われていたはずだ。だが突如として2人の恋愛関係が終わったことが、お互いのSNSを通じて2021年12月に発表された。
出会いと別れ。
恋愛はカミラを成長させる大きな経験だったに違いない。
2人の恋の顛末はニューアルバム『ファミリア』の先行シングル「バン・バン feat. エド・シーラン」で触れられている。しかし、そこから感じられるのはポジティブさ。歌詞にある「Asi es la vida」というスペイン語は、和訳すると「人生はそんなもの」という意味で、カミラの母が辛いことがあった時に自分を励ますために使っていた言葉だという。
Bam Bam feat. Ed Sheeran[和訳MV] -カミラ・カベロ-
カミラが大好きだったエド・シーランとコラボレーションできた作品であることも、カミラにとっては大きかったはずだ。
「バン・バン」は、あくまでカミラらしいラテン調の明るいダンスミュージック。人生のアップダウンを受け入れて、自分を奮い立たせようとするポジティブアンセムになったのかもしれない。
『ファミリア』でカミラの愛するものや大切にすることに触れる。
3rd アルバム『ファミリア』(JacketPhoto)
「バン・バン」に注目が集まりがちだった『ファミリア』だが、これまで以上にカミラの強い想いが込められたアルバムになっている。ラテン語で〈家族〉を意味するタイトルの通り、家族や友人、恋人など、肉親だけでなくカミラがこれまで出会った様々な人との関係性を見つめ直すことがテーマとなった内容になっている。カラフルな服を纏い本当の従妹を抱きしめる姿のジャケットも印象深い。また自身の中にあるヒスパニックとしてのバックボーンも〈家族〉として捉え直すことで、これまでのアルバム以上に、キューバやメキシコを中心とした中南米の音楽を大々的に取り入れたサウンドアプローチも試みている。
しばらくのブランクの間、マイアミで家族と過ごしたカミラは、スペイン語をより話す生活を送ったことで自分を取り戻すことができたという。そこで生まれた「ドント・ゴー・イェット」は、そんな微笑ましいエピソードが伝わるラテン・サウンドが際立ったポップでポジティブなナンバーになっている。ミュージック・ビデオには、カミラの父親、妹、従妹も出演するなど、家族がクリスマスや新年に集まって踊ったりする楽しげな雰囲気が再現されている。きっとカミラの〈家族〉に対するイメージが具現化されているのではないだろうか。
Don’t Go Yet (Official Video – Extended Version) -カミラ・カベロ-
アルバム『ファミリア』ではスペイン語で歌う曲も多くなっているのも特徴。例えばアルゼンチンのトップシンガーであるマリア・ベセラをフィーチャリングに迎えた「アスタ・ロス・ディエンテス」は全編スペイン語の曲だ。スペイン語圏がルーツの2人がコラボレーションし、ミュージック・ビデオまで発表した意義は大きいように思える。そして女性の独占欲や嫉妬心がテーマのこの曲を、カミラとマリアのエキゾチックな歌声で妖艶に引き立てている。
Hasta Los Dientes feat. Maria Becerra (Official Music Video) -カミラ・カベロ-
「ラ・ブエナ・ビダ」は、メキシコ音楽のトラディショナルな形態であるマリアッチバンドの演奏による曲で、幼い頃、カミラが耳にしていた音楽を追体験しているかのように聴こえてくる。それもそのはず。バックコーラスにカミラの父アレハンドロが参加してるのだ。このように、アルバム『ファミリア』には、自身の出自を明確にしアメリカのエンタテインメント界で活動をしていこうとするカミラの覚悟を感じられる。
La Buena Vida -カミラ・カベロ-
厳しい状況からアメリカン・ドリームを実現してきたカミラ。そこに驕りはなく、彼女は常に自分のルーツと向かいあってきているように思う。公式インタビューの中で〈ふたつの国から受け継いだと感じる感性や美意識、或いはメンタリティ〉について問われると、カミラはこう答えている。
“自分らしさ、そしてどういう人物になりたいと思うかというのは、私が受け継いできたキューバとメキシコの伝統によるところが大きいと思うの。
私の開放的なところや遊び心、官能性、カラフルさ、プライドはそれらの文化から来ている。
このアルバムでスペイン語の歌詞を書くようになる以前から、スペイン語でフリースタイルに話してどんなメロディが生まれるかを試してみたりということを時々やっていたの。
私の中の異なる部分に耳を傾けようとする。
だから、私にとってはより遊び心のある側面が引き出されると感じるわ。
そしてまた、無意識のうちに子供の頃から親しんできたラテン音楽にも影響されているのだと思う。それはメロディという意味でもそうね。”
そんなカミラの近況は相変わらずアクティブで、アメリカの故郷フロリダで「Protect Our Kids(プロテクト・アワ・キッズ)基金」を設立したという。これは同州で、性的指向やジェンダーに関して学校で教えることを制限する通称「Don’t Say Gay(ゲイとは言ってはいけない)」法案が可決され、これに影響を受ける学生や教師、家族らをサポートするため、LGBTQ+の権利を擁護するイクオリティ・フロリダと公民権団体ランバダ・リーガルとタッグを組んで立ち上げたそうだ。
“フロリダで育ち今もそこに住む人間として、私の故郷の州がこの法律を可決したことで、フロリダの若者たちの健康と生活が危険に晒され、学校での差別の引き金となることに愕然としています。
全ての学生を守り、全ての家族を尊重しなければなりません”
移民としてアメリカに渡りアメリカ人となりながらも、自身のルーツに誇りを持ち生きてきたカミラ。彼女にとってマイノリティに関連する問題を考えていくことは必然なことかもしれない。彼女のもう一つのキャリアとして影響力を強めていくことに注目しておきたい。
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PLAYLIST
最新アルバム 『Familia|ファミリア』
- アルバム視聴・購入はこちら
- 1.ファミリア
- 2.セリア
- 3.サイコフリーク feat. ウィロー
- 4.バン・バン feat. エド・シーラン
- 5.ラ・ブエナ・ビダ
- 6.クワイエット
- 7.ボーイズ・ドント・クライ
- 8.アスタ・ロス・ディエンテス feat. マリア・ベセラ
- 9.ノー・ダウト
- 10・ ドント・ゴー・イェット
- 11.ローラ feat. ジョトゥエル
- 12.エヴリワン・アット・ディス・パーティー