グラミー賞も認めた、Silk Sonicのレトロなニュースタイル。

BY FEEL ANYWHERE
2022.05.30

これまでにグラミー賞を計11部門受賞し〈世界一のメロディ・メイカー〉とも呼ばれているブルーノ・マーズ(以下 ブルーノ)。そしてブラックミュージックにおけるキーパーソンとして、これまでにグラミー賞を計3部門受賞しているアンダーソン・パーク(以下 アンダーソン)。アメリカのミュージックシーンにおいて、トップランナーとして走り続けるこの2人が生み出したスーパー・デュオ・グループがシルク・ソニックだ。第64回グラミー賞(2022年)では「Leave The Door Open」がデビューシングルにして、最優秀レコード賞&最優秀楽曲賞の主要2部門含め、4部門を受賞する快挙を成し遂げた。世界中がパンデミックの中で登場したシルク・ソニック。彼らが多くのリスナーの心を捉えたのは何だったのだろう?

半世紀前にタイムトリップさせてくれるシルク・ソニック。

2022年5月 ビルボードミュージックアワードでパフォーマンスするシルク・ソニック。Photo:John Esparaza/Getty Images

シルク・ソニックのパフォーマンスを初めて目にしたのは、 「Leave The Door Open」がリリースされた直後に開催された2021年のグラミー賞のステージだった。ブルーノとアンダーソンは、レトロなスーツを身につけゲストパフォーマーとして登場。2人が歌う「Leave The Door Open」は1970年代のクラシック・ソウルへのオマージュ感が溢れ、まるで半世紀前から歌い継がれてきたオーセンティックなナンバーのようだった。当時のことを知っている人も、そうでない人も、時代が遡っていく不思議な感覚になったのでないだろうか。

Leave the Door Open (LIVE from the 63rd GRAMMYs2021) -シルク・ソニック-

デビューライブがグラミー授賞式でのパフォーマンスという信じられない幕開けでスタートしたシルク・ソニック。その後の反響は凄まじく、全米シングルチャートはもちろん、世界各国のチャートで1位を獲得。ミュージックビデオは、現在までに5億6000万回以上再生(2022年5月)という驚異的な数字を更新し続け、その勢いはいまだ衰えることはない。まずはブルーノとアンダーソンの2人について簡単に紹介していこう。

ブルーノとアンダーソンに共通するのは〈古き良きもの〉へのリスペクト。

2013年9月 コリセオ・デ・プエルトリコでパフォーマンスするブルーノ・マーズ。Photo:GV Cruz/Getty Images

既に日本国内でも説明不要なほどの認知と人気を誇るブルーノ。彼の楽曲の魅力といえば、世代や人種を問わず魅了させるメロディ・センス。それは、ブルーノがこれまでに影響を受けてきたアーティストたちに対するリスペクトと、過去の音楽を現代的なアプローチでアップデートさせてきたことから生まれていると言える。おそらく、幼い頃から両親や兄姉妹と共にナイトクラブのステージに立ち、マイケル・ジャクソンやエルヴィス・プレスリーをモノマネして観客を沸かせてきたという原体験も影響しているのだろう。そして、2016年にリリースし、グラミー賞7冠に輝いたモンスターアルバム『24K Magic』では、1980年代から90年代にアメリカで流行したファンクやニュージャック・スウィングを現代に蘇らせた数々の大ヒット曲が生まれた。このアルバムに収録された甘いバラード曲たちに、シルク・ソニックの原型を感じることができる。

24K Magic(Official Video) -ブルーノ・マーズ-

2019年9月 ドラムパフォーマンスするアンダーソン・パーク。Photo:Gregg DeGuire/Getty Images

アンダーソンは、ブルーノと同学年の1986年生まれ。幼少期から母親の影響でフランキー・ビヴァリーやアース・ウィンド&ファイア、ドクター・ドレー、スヌープ・ドッグなどを聴き、古いファンクやR&Bに魅了されていったという。一時期、妻子を持ちながらホームレス生活に陥るという苦労を経験したアンダーソンだが、そんな彼を救ったのが音楽だった。その後はドラマー/ラッパー/DJ、そしてシンガーと音楽活動の領域を広げ、2019年のグラミーでは最優秀ラップ・パフォーマンス賞を受賞するまでに至った。日本でも2018年のFUJI ROCKでの圧巻のステージが高い評価となり、たくさんのファンを獲得している。

Bubblin(Official Video) -アンダーソン・パーク-

2017年にブルーノは「24K MAGIC WORLD TOUR」を開催、このツアーに同行し、オープニングアクトを務めたのがアンダーソンだった。ツアー中にお互いの音楽ルーツや音楽観などを話しているうちに2人は意気投合、ツアーの合間にスタジオでセッションをするなど親交を深めていった。そして、2人が共通して大事にしている〈古き良き音楽への愛情〉を形にしていきたい気持ちが高まり、シルク・ソニックが誕生していく。

シルク・ソニックを聴いて〈アメリカの古き良き時代と音楽〉を知る。

冒頭でも紹介した「Leave The Door Open」は1970年代に流行したフィラデルフィア・ソウルを再現したかのような曲だ。フィラデルフィア・ソウルとは、それまで土着的な感じもあったソウルやR&Bを都会的に洗練されたサウンドに変貌させた新たなソウルミュージックの音楽形態。スウィートソウルとも呼ばれ、甘く切ないメロディを美しいコーラスで歌い上げる曲が、当時の多くの人を魅了した。シルク・ソニックはこの世界観を忠実に再現するため、生バンドでの演奏にこだわった。この姿勢は「Leave The Door Open」のミュージック・ビデオで感じることができる。そして、オープニングや曲中でのブレイクで見せる、グループ全員の同じ決めポーズもなんと粋なことか。

Leave the Door Open(Official Video) -シルク・ソニック-

ブルーノとアンダーソンが最初に作った曲が「Smokin Out The Window」。「24K MAGIC WORLD TOUR」中に、半分冗談のようにセッションしていたものから生まれた曲だ。フィラデルフィア・ソウルの真骨頂というべきこの曲が完成したことで、シルク・ソニックが生まれるきっかけになっていった。ミュージックビデオでは、伝説となっている音楽番組「ソウル・トレイン」が現代に蘇ったかのようなテイストが気分を高めてくれる。メロディが気持ち良すぎて身体を揺らしたくなるが、歌詞は悪女に弄ばれる男性の心情を歌っているので要注意。と言いながらも、コミカルな演出もシルク・ソニックの注目すべき点。歌詞の和訳をじっくり見ながら、ミュージックビデオを味わって欲しい。

Smokin Out The Window(和訳) -シルク・ソニック-

ここまで紹介した2曲の雰囲気を堪能できる代表的なグループが、1970年代に活躍したスタイリスティックスだ。リード・シンガーのラッセル・トンプキンスJr.による天高く突き抜けるようなファルセット・ヴォイスが魅力。日本では「愛がすべて」という邦題で知られる「Can’t Give You Anything(But My Love)」が日本のディスコ・シーンともリンクして大ブームになり、当時を知る世代には忘れられない名曲として心に残っているのではないだろうか。

Betcha By Golly, Wow -スタイリスティックス-

またシルク・ソニックをより理解する上で、元祖スウィートソウルと呼ばれるスモーキー・ロビンソン(以下、スモーキー)も押さえておきたいアーティストだ。実はアンダーソンは、自身のソロアルバム『Ventura』(2019年)の「Make It Better」でスモーキーと共演しているのだ。スモーキーはアーティストとしてはもちろん、名門レーベル・モータウンの設立に参加し、長く副社長を務めた。ブラックミュージック界の大御所でもある。そのスモーキーの名作のひとつがアルバム『A Quiet Storm』(1975年)。シルク・ソニックの「Leave The Door Open 」のヒントになったアルバムでもある。

Baby Come Close -スモーキー・ロビンソン-

2ndシングル「Skate」は、まさに70’sのディスコ&ファンク楽曲。ミュージックビデオはブーツ型のローラースケートを履いた女性たちが駆け回り、ダンスする姿が印象的だ。1970年代後半に欧米では、ローラースケートで踊るローラーディスコが大ブームとなっていた。その時代を彷彿とさせるナンバーが「Skate」だ。

skate(Official Video) -シルク・ソニック-

そんなローラーディスコと共に、数々のヒットナンバーが生まれていった。その中で是非聴いて欲しいのが、ヴォーン・メイソン&クルーの「BOUNCE, ROCK, SKATE, ROLL」。活動期間は3年という短命で日本ではほとんど馴染みのないグループだが、この曲は BTS の「Butter」に影響を与え、ダフト・パンクの「Da Funk」を始め多くのアーティストがサンプリングした知る人ぞ知るブラックカルチャーを代表する名曲として受け継がれている。

Bounce, Rock, Skate, Roll -ヴォーン・メイソン&クルー-

第64回グラミー賞授賞式で、オープニングで披露されたのが「777」。もはやコスプレの域に達したアンダーソンの姿には笑いを誘われるが、アルバムの中でも一番のファンクチューンだ。冒頭のリズムギターのカッコ良さや、終始鳴り響くホーン・セクションが絶妙な気持ちの良さとなっている。ステージの中盤で、ジェームス・ブラウンの「セックス・マシーン( Get Up I Feel Like Being A Sex Machine )」のフレーズを歌うなど、オマージュ感たっぷりに歌いあげる姿は圧巻。現在と過去のファンクミュージックを見事に融合させている。

777 (64th GRAMMY Awards Performance) -シルク・ソニック-

ジェームス・ブラウンは音楽メディアの『 Rolling Stone』が選ぶ「歴史上最も偉大な100人のシンガー」で第10位、「歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第7位にランクインするなどアメリカの音楽シーンにおいて非常に重要なアーティストだ。「セックス・マシーン」のメロディは非常にシンプルなビートが繰り返されるだけなのだが、そのビートにジェームス・ブラウンのシャウトとソウルフルなヴォーカルが乗り、聴く側の気分は高まっていく。「ファンク」という言葉を黒人音楽の呼び名から、世界共通の音楽文化のひとつとして押し上げた重要人物がジェームス・ブラウンなのだ。

Sex Machine -ジェームス・ブラウン-

また「777」のサイケデリックなギターが気持ちよく感じたら、ジャズからファンクまで、数多くのセッションで活躍したデトロイトを代表するギタリストであるデニス・コフィーを聴いてみるのがオススメ。白人ギタリストにして、60年代後期からあのモータウン・サウンドを支えたFunk Brothersのオリジナル・メンバーとして活躍した人物だ。「Scorpio」は、パブリック・エナミーやLL COOL Jなど数多くのアーティストがヒップホップ作品でサンプリングする定番にもなっている。

Scorpio -デニス・コフィー-

日本でも80年代シティポップや昭和カルチャーが注目を浴び、当時の世代が懐かしむだけでなく、若い世代の人たちが新鮮なカルチャーとして見直している。シルク・ソニックが提示する音楽が、グローバルトレンドの発信地であるアメリカにおいて大きな支持を得ているのも、2020年代の潮流かもしれない。みなさんも〈古き良き音楽〉を探してみてはどうだろうか?時代に関係なく、初めて触れて気持ちを動かされる曲が、みなさんにとってのニューソングなのだから。

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